気まぐれ三月、お日さまを見て傘を出す

Marzo pazzarello guarda il sole e prendi l’ombrello

こんにちは。皆さん元気にお過ごしですか?少しずつ春めいてきた今月は、桃の節句、春分、復活祭Pasquaと、季節のイベントが盛りだくさんですね。本年度は太陽系の惑星をキーワードにしたブログをお届けしていますが、第2回目は3月の神様にちなんで火星Marteをトピックにお便りします。

Marte Pianeta
火星は、裸眼で見ることができる5つの惑星の一つとして古代から人類に親しまれてきました。太陽系の惑星の中では2番目に小さく、地球の半分程度の直径の星です。酸化鉄を含む土壌のために赤褐色の表面をしています。砂漠のような風景や四季があることなど、地球と類似点の多い火星には、過去に水や厚い大気があったと言われています。現在の火星は人間の住める環境ではないものの、その環境を地球化する計画もあり、小説や映画に出てくるような火星への移住もそう遠くない未来に実現するのかもしれません。

Marte Poster火星の研究には、多くのイタリア人が貢献してきました。17世紀のガリレオGalileo Galileiは、初めて望遠鏡を使って火星を観察した研究者の一人です。また、ジェノヴァ共和国出身のカッシーニGiovanni D. Cassiniは、宇宙探検前の火星研究の第一人者です。19世紀後半には、スキアパレッリGiovanni V. Schiaparelliが火星表面の緻密な地図を作りました。

Galileo CassiniSchiaparelli

さて、日本語の「火星」という名は、古代中国の五行説に由来しています。五行の哲理では万物の元素を木、火、土、金、水とし、古くから知られていた5つの惑星もそれぞれの特徴にちなんで各元素が割り当てられました。火星はその赤い色から火の元素に属する星とされ、「火星」と呼ばれるようになりました。また、古代中国では火星を災いの前兆の星とみなし、「螢惑」の別名で呼ぶこともありました。

Marte Dio

一方、現代イタリア語では火星は「Marte」と呼ばれています。惑星Marteは古代イタリアとローマ神話の軍神マルス(Marte)の星とされていたことから、その名がつけられました。もともとの名前の由来は、バビロニアの天文学者たちが、火、破壊、戦争の神である「Nergal」の名で火星を呼んだことに遡ります。その後、ギリシア神話の神アレスとNergalが同一視され、火星はギリシアで「Aeros aster(アレスの星)」と呼ばれるようになります。(火星には小さな衛星が2つあり、アレスの子供フォボスFobosとダイモスDeimosの名前がつけられています。)続いて軍神マルスとアレスが同一視され、火星はローマで「Stella Martis」と呼ばれ、さらにシンプル化してMarsとなり、イタリア語の火星「Marte」となりました。

軍神マルスは古代イタリアやローマでとても人気のあった神さまで、色々な言葉の由来になっています。例えば、ローマを建国したロムルスは軍神マルスの息子であるため、古代ローマ人は自分たちのことを「figli di Marte」と呼んでいました。イタリア語の3月「marzo」も、ラテン語の「Martius mensis(マルスの月)」から生まれています。軍神マルスの月marzoは古代ローマでは1年の始まりとなる聖なる月で、色々なお祭りが執り行われていました。そして、3月は春の始まりとともに戦争の始まる月でもありました。また、占星術などで惑星Marteを表すシンボル「♂」も、軍神マルスの盾と槍をもとに作られたと言われています。このシンボルは、生物学では軍神マルスにちなんで「男性」を表したり、錬金術では酸化鉄の赤が火星と同じために「鉄」を表したりします。

March hare

イタリア語では、お天気の変わりやすい3月を「marzo pazzo」や「marzo pazzarello(狂った3月)」と表現することがあります。また、そこから派生して「è nato di marzo(あいつは気分屋の変人だ)」という表現も生まれています。英語の「Mad as a March hare(3月ウサギのように気が変だ)」という成句もあるように、3月は春の訪れに心ときめき、どこか落ち着かない月なのかもしれませんね。寒くなったり温かくなったりする忙しない時季ですが、皆さんどうぞお元気に春をお迎えください!

*当記事は2016年3月に、公益財団法人 日伊協会のサイトで紹介されています。