海のしずく、ローズマリー

Il Rosmarino, rugiada di mare

こんにちは。太陽のまぶしい夏がやってきました。みなさんいかがお過ごしですか?6月に入りイタリアの夏も本番。海岸には色とりどりのパラソルが並び、ジェラートも一段と美味しいバカンスのシーズンになりました。さて、今回は強い陽射しの下でも元気いっぱいに地中海沿岸を彩るハーブ、ローズマリーをテーマにお便りします!

日本でもおなじみのローズマリーは、地中海沿岸を原産とする常緑性の木。日本には江戸時代後期に輸入されたと言われ、現在は調理用のハーブとして用いられるだけでなく、庭や花壇などに植えられ観葉植物としても広く知られています。和名はマンネンロウ。「香りの絶えない」という意味からマンネンコウ(万年香)と呼ばれていたものがなまってできた言葉と言われています。生薬として使われる場合は、「迷いをさまして頭をすっきりさせる」という意味をもつ中国名の迷迭香がもとになり、メイテツコウと呼ばれています。

イタリア語でローズマリーを意味することばrosmarinoは、ラテン語のros marinusやrosmarinusが語源。ローズマリーが海岸に沿って自生していたことから、もともとは「海の露」という意味を持っていました。トスカーナ地方のローズマリーの呼称ramerinoは、イタリア語のrosmarinoに「枝」を意味するramoという単語が混ざってできたことばだと言われています。同じく英語名のrosemaryもラテン語のrosmarinusを起源に持ちますが、こちらは英語のrose(バラ)とMary(マリア)という二つの単語が混ざって変化したようです。

お料理では、まさに万能選手。新鮮な葉や乾燥させた葉は、レバーペーストやジャガイモをベースとした料理に使われるほか、羊、牛、ウサギ、鴨などのローストをはじめとする肉料理やパン、フォカッチャなどとも相性が抜群です。ローズマリーを漬け込んだオリーブオイルは料理に風味を加えるだけでなく、消化を助ける作用もあると言われています。また葉に比べて馴染みの薄いローズマリーの花は、サラダなどに用いられます。

ローズマリーにまつわる説話も枚挙にいとまがありません。中でも有名なエピソードは、聖母マリアにちなむ伝説です。聖母がエジプトから逃れる際にマントをローズマリーの木にかけると、もともと白かったローズマリーの花がマントと同じ水色に変わったと言われています。また、近代にはナポレオンの逸話があります。ローズマリーが頭を覚醒させるとして、ナポレオンは作戦を練る際にローズマリーの精油を大量に消費していたそうです。

消臭、殺菌、抗酸化、鎮痛などの効能があるとされているローズマリーは、古くから生活のさまざまな場面で使われてきました。ペストが流行した時期には、空気のけがれた場所でにおいを嗅ぐことができるようにポケットや袖口などにローズマリーをしのばせて歩いたと言われ、また、ヨーロッパの病院では重病患者のいる病室でローズマリーを焚き、空気のけがれを浄化していたと言われています。

ローズマリーが象徴するシンボルは、「愛」や「思い出」。それにまつわる民間信仰もたくさんあり、例えば、ローズマリーの小枝を水色のリボンでまとめて枕の下に入れて寝ると、夢で思い出の人に会えるのだとか。嗅覚と記憶の結びつきについてはさまざまな研究もあり、あながち迷信とも言いきれなさそうです。今宵、ローズマリーでお肉をローストしたら、懐かしいあの人が夢で待っているかもしれませんね。

 

*当記事は2014年6月に、公益財団法人 日伊協会のサイトで紹介されています。